歯周病の基礎知識
歯や歯茎だけでなく、生活習慣病など全身に影響すると分かってきた歯周病。その仕組みと対策をご紹介します。
歯周病とは、以前は「歯槽膿漏(しそうのうろうう)」と呼ばれていた病気です。その後、「歯周病」という新しい名前が次第に広がり、日本では成人の80%に症状があるとされ、その知名度も上がってきました。
歯周病は口の中の細菌が引き起こす感染症です。口内には普段か300~400種類もの細菌が生息しており、その約1割が歯周病に関係しているとされています。ほかの感染症と比べると、原因となる細菌の種類が多いのが特徴です。
これらの細菌は酸素を嫌って、歯の表面に付着したり、歯と歯茎の境から内側に潜り込み塊になっています。これを「歯垢(しこう)」や「プラーク」と呼び、これが歯肉(歯茎)、歯根膜、歯槽骨、セメント質で構成される「歯周組織」にさまざまな症状を引き起こします。
歯茎だけに炎症が起きている段階を「歯肉炎」、すべての歯周組織に炎症が広がると「歯周炎」となります。歯周病は自覚症状がないため、気付いた時にはすでに重症化しているほど進行しているため、“沈黙の病気”などと呼ばれています。
歯肉炎
歯茎が赤くはれ、固いものを食べた時などに出血するのが特徴
この段階で歯科医院を受診し、プラークを取り除けば、健康な状態に戻ることが可能です。
歯周炎
歯肉の表面から内部に向けて炎症が進むため、症状の悪化に気が付きにくいのが特徴。
生活に支障がないから、と放置するのは禁物です。歯周炎が進行すると、歯を支えている歯槽骨が溶けて消失し、歯が抜け落ちてしまいます。
近年の研究では、繁殖した細菌が血管を通じてさまざまな臓器に到達し、糖尿病や心筋梗塞、早産などにも関係していることも分かってきました。歯周病の治療や予防は、全身の健康維持につながっているのです。
歯周病の原因
歯周病とは(1)歯肉(2)歯槽骨(歯を支えているあごの骨)(3)セメント質(歯根の表面)(4)歯根膜(歯と歯槽骨の間の膜)―のいずれかに障害のある状態を言い、細菌の感染によって起きます。
その意味で、歯周病の真の原因は「歯周病菌が増殖しやすい口腔内環境をつくってしまうこと」だと言えます。歯周病は、かつては老化に伴う疾患だと考えられていましたが、研究が進んだ今日は原因が特定されており、適切な処置によって予防・治療ができることが明らかになっています。
歯周病の予防法
歯周病の原因である細菌は口の中の歯垢(プラーク)に生息しています。
ですので、歯周病を予防する方法は歯垢を除去することです。
歯垢を除去するためには毎日の歯磨きが非常に大切です。
つまり、しっかりと歯磨きをおこない歯垢を取り除くことで歯周病は予防できるということが分かるかと思います。
しかし、毎日歯磨きをしていても歯周病にかかってしまう人はたくさんいます。それは、なぜなのでしょうか?
歯石は歯磨きだけでは取り切れない
歯垢を取り除くには歯磨きが非常に大事です。ですが、歯磨きだけで歯石を取り切るのはほぼ不可能です。
歯のあらゆる場所に歯ブラシを届かせ、磨き残しがなければいいのですが、奥歯や歯並びが良くない箇所など、場所によってはどうしても届かない所もあり、そこに歯垢が溜まってしまいます。その結果、歯周病が発症してしまいます。
しっかり歯磨きをしているとおっしゃる方の大抵は、必ず磨き残しがあり、それは長年自己流で歯磨きを行ってきているため、どうしても“歯磨きの癖”
があります。
歯磨き指導を実施
当院では、ご自身の歯磨きの癖や磨き残しを改善して頂くために、歯磨き指導を行っております。歯垢に色がつく染め出し剤を使い、ご自身のお口の中の磨き残しやすい場所を認識して頂き、それぞれの患者さまに合った歯の磨き方を丁寧にご指導しております。一緒にデンタルフロスや歯間ブラシなどのケア用品の活用や、使い方もお伝えします。
定期的にプロフェッショナルケアを
ご自身の歯磨きの癖を理解した上でしっかりと歯磨きをすることで、歯垢は着実に減っていきますが、それでも完璧に取り除くのは難しく、どうしても限界があります。完璧に取り除く為には、ご自身で行うセルフケアだけでなく、歯科で行うプロフェッショナルケアが不可欠です。
プロフェッショナルケアはご自身では落としきれなかった歯垢を確実に落とすことができます。
正しいセルフケアと定期的なプロフェッショナルケア、この2つをしっかりと行うことで歯周病のリスクを大幅に減少させることができるのです。
健やかな老後を送るために
脳は噛むことによって刺激を受け活性化するのですが、歯周病が進行すると歯はぐらぐらと動くようになり、やがて抜けて噛むことができなくなるため、脳への刺激も少なくなります。脳細胞は普通の人で140億個ありますが、ある年齢から毎日10万個ずつ失われていくと言われています。脳に刺激が加わる人はそれが6万個ですむのに対して、刺激のない人は25万個も減ると言われます。従って歯周病を予防して健康な歯を保有することは寝たきりや老人性痴呆症の予防にとても大切なことなのです。
若いうちから歯周病に注意して健やかな生涯を送りましょう。
歯周病の進行段階
歯周病は歯と歯肉との境に歯垢(プラーク)がたまり、その中の細菌が歯肉に炎症を引き起こして発症します。歯肉が赤く腫れたり指で押したり歯ブラシで当てると出血し、進行すると歯肉の中の歯槽(しそう)骨が溶けて膿(うみ)が出たり歯が抜け落ちます。
痛みの自覚症状は腫れた時以外はほとんどないため、歯と歯の間によく物が挟まるようになり、歯がぐらぐらし始めて物がよくかめなくなるまで、治療を受けない人がほとんどというのが現状です。
程度によって「軽度」「中度」「重度」の3つの段階に分けられます。歯茎の腫れや出血、膿み、また歯のグラつきなどを自覚している方は、まずはご自身がどの段階の歯周病なのか確認してみましょう。
歯周病の症状について
歯周病が進行することで出てくる症状をご紹介します。
- 歯茎から血が出る
- お口の機能が衰える
- 歯茎が痩せる
- 歯がぐらつく
- 歯茎から膿が出る
- 口臭がきつくなる
歯周病の治療について
あおみ歯科で行っている、具体的な治療法をご紹介します。
スケーリング(歯石除去)
スケーラーと呼ばれる器具を用いて、歯面に付着した歯石を取り除きます。
デブライトメント(歯垢除去)
天然歯のセメント質を傷つけることなく歯周病の原因となる「プラーク」を取り除きます。一般的に手動の器具や超音波などを用いて、歯周ポケットの内部に溜まったプラークを丁寧に取り除いていきます。
ルートプレーニング
歯周病菌に汚染されたセメント質を取り除き、歯根面をなめらかにする治療です。
歯周外科治療(フラップ手術)
進行した歯周病に対して行う外科処置のことで、歯周病が進行してしまった部位の歯茎を切開し、歯根面に付着している歯垢や歯石を除去します。
レーザー治療
レーザーをあてることで、歯周ポケット内の歯石を取り除き、歯周病の原因となる細菌を死滅させます。
歯茎の再生治療(結合組織移植術)
重度の歯周病によって失われた審美生を改善する、歯茎の再生治療です。歯周病が完治しても、歯槽骨がすでに溶かされてしまっていると、見た目の審美生を損ねてしまいます。
骨移植
骨移植とは、歯周病で骨が少なくなってしまった部分に人工骨や自分の骨(自家骨)を移植し、骨の再生を図る治療です。最近は顎骨が不足して植立できなかった難症例にも骨の再生を行うことができるようになりました。
エムドゲイン(歯周組織再生療法)
歯周病で溶けてしまった骨や歯根膜などの組織を回復させる治療法です。歯周病によって失われた歯を支えている骨を再生させる「エムドゲイン・ゲル」というタンパク質を使って、歯の成長過程に似た環境を再現し、歯周組織を再生させます。
GBR(骨誘導再生)
「Guided Bone Regeneration」の略で、日本語では「骨誘導再生法」と言います。歯周病で溶けた骨などの歯周組織を再生させる再生療法の1つです。
歯周病治療の流れ
Step1歯周病の検査
まずは検査(歯周ポケットの深さやレントゲン)をし、現状をきちんと把握します。歯周ポケットの深さは4mmを超えると歯周病の疑いがあります。
あおみ歯科のレントゲン検査は、デジタルレントゲンで撮影します。胸のレントゲンなどを撮るのに比べ、歯は面積が小さいので被爆量はほとんどありません。
Step2カウンセリング
カウンセリングでは、歯周病の検査でわかった結果と患者さまお一人おひとりと会話を重ねながら、さまざまなことを丁寧に聞き取り、今後の方針を決めます。現状で既に痛みや症状がでている場合には治療を行ってから、次の初期治療に移ります。
Step3初期治療
まずは歯磨きの指導で磨き残しをなくし、歯石除去により歯肉の土台を改善させます。ここでは患者さまにしっかりとご自身の現状をご理解頂き、口腔内のケアを行って頂きます。
その後、スケーリングやルートプレーニング、詰め物や被せ物の不具合調整、噛み合わせの改善といった治療へと進めていきます。
Step42度目の歯周病の検査
初期治療を行ったあと再度歯周病の検査を行い、経過・改善状況を確認します。
2回目の歯周病検査で歯周ポケットの深さが3mm以下で、なおかつ出血もなければ治療は終了です。あおみ歯科では健康な状態を維持するために、定期的なプロフェッショナルケアをおすすめしています。もし、まだ歯周ポケットの深さが4mm以上の場合は、再度、初期治療を行います。
Step5治療
重度の歯周病で、壊れた歯周組織ある場合には、歯周外科手術を行います。
歯周外科手術には下記があります。
- エムドゲイン(歯周組織再生療法)
- GTR(歯周組織誘導法)
- 歯茎の再生治療(結合組織移植術)
- 骨移植
また、外科手術を望まれない方には、初期治療を繰り返すことで、現状を少しでも改善させる方法もありますし、患部に被せ物をして現状を維持する方法もあります。お一人おひとりの患者さまのご希望やご予算、毎日の生活スタイルに合う方法を一緒に探し、インフォームド・コンセント(説明と同意)を経た上で、治療を進めていきます。
Step6定期的なメンテナンス
あおみ歯科では、通っていただく患者さま全員が健やかな口腔(こうくう)環境を追究できるよう、細かくメンテナンス項目を設定しています。メンテナンスにかかる時間は、最大90分です。セルフケアの指導もさせていただきます。
特にポケットの深さが3~4mm程度ある方は、今が大事な時期です。2カ月に1回のメンテナンスを実践すれば、10年間で失う歯は1本で済むという試算もあります。
あおみ歯科では現在30歳の方であれば、定期的なメンテナンスによって、70歳までに失う歯は4本で済むというのを目安にしています。80歳までに20本の天然歯を残すことを目指して、定期的なメンテナンスと日々のセルフケアに努めましょう。